カルレ・イリノイ医大の研究でも意外な結果が出ました。40歳から69歳のパイロットの認知力を比較したところ、新たなフライト・シミュレーターの操作法を習得する時間は高齢者のほうが長かったが、衝突回避の成功率は高齢者のほうが高かったのです。fMRI(機能的磁気共鳴画像法)やSPECT(シンチグラフィー)といった造影診断法を利用しての研究も進み、脳には加齢に対抗するメカニズムがあることも証明されました。トロント大学のシェリル・グレディー博士によれば、シニアの高齢者はひとつの作業の達成に向けて若年層が使わない脳の部位も活性化させているのです。
例えば記憶処理を主に担う側頭葉内側部が加齢により不活性化するに伴い、高齢者は前頭前皮質腹内側部、前頭前皮質背外側部も記憶処理に動員し、注意力といった認知機能の補強に前頭葉と頭頂葉の両方を活用しています。若年層は単純作業には左右の片側の脳しか使わないが、高齢者では左右の脳を活用する傾向が見られ、活用する部位が多いほど成果は良くなりました。
高齢者は若年層より物の見方が前向きになることも南カリフォルニア大学の研究が証明しています。高齢になると情動反応を司る扁桃体がネガティブな刺激に反応しにくくなります。また40歳を過ぎた頃からネガティブな記憶よりポジティブな記憶のほうが増え、その傾向は80代まで続きます。つまり感情に左右されにくく、ストレスに強くなるということです。